あなたはこの3人家族の誰の味方になる?『ワイルドライフ』レビュー ネタバレ
ぐっと切ない映画でした。
田舎暮らしの3人家族が中心に描かれるこの映画、3人のうちの誰に感情移入するかでその人の性格が分かる気がします。
これについては後述。
これを観たあなたは、誰に感情移入するだろう?
あらすじ
舞台は1960年代、モンタナ州の田舎町に暮らす3人家族。
父が職を解雇されたのを契機に、家族の間に隙間風が吹き始める……。
3人家族を紹介
父ジェリーは何度も仕事を転々としているらしく、経済的に不安定。
失業したのを契機に突然、山火事を消化する長期出稼ぎ労働に出かけてしまう。
出稼ぎから帰ってきたときにはしかし、妻の心は離れてしまっており、妻が浮気していたことを知る。
母ジャネットは独立した女性のように見えるが、どこかにもろさを抱えた女性。
ジェリーの出稼ぎに大反対する。
父が出稼ぎに出ていった後、その隙間を埋めるように他の男と浮気をしてしまう。
ジャネットはどうしても若いころにちやほやされた甘い経験を忘れられないらしく、「まだ自分なら」と思い、浮気に走る。
14歳の一人息子ジョー。
ジョーは、特にこれといって目立った感じのしない子供で、両親に振り回されつつ自分の居場所を不器用に模索していく。
女の部分を見せる母の浮気をそばで見せつけられ、精神に深い傷を負う。
それでもジョーは写真館の仕事を自力で見つけ、自分でお金を稼ぎ、独立することを学び始める。
あなたは誰に感情移入した?
3人のうち、誰に感情移入するかによって、あなたという人が分かります。
父ジェリーに感情移入したあなたは
父ジェリーに感情移入したあなたは、きっと彼の中年男としての焦りに共感したのでは?
父として家族を支えないといけないのに仕事を解雇されてしまったが、スーパーのレジ係をやるなんてプライドが許さない。
何か突破口を見つけないといけない……。
そうやって焦るあまり、危険な山火事消化の出稼ぎに旅立ったジェリーに感情移入したあなたは、きっと男性だと思います。
男は稼いでナンボ! 男は高収入じゃないといけない!
そんな社会的呪縛から解放されたいとあなたは願っているのではないでしょうか?
それは悪いことではありません。収入が少なくたって、自分が納得さえできればそれでいいのです。
乱れのない人生なんて間違ってます。
母ジャネットに感情移入したあなたは
母ジャネットに感情移入したあなたは、きっと女性でしょう。
ピチピチの若さを失いはじめた20代後半以降の女性は、きっと感情移入するはず。
きっとあなたは、勝手に家族を置いて出ていった父ジェリーをひどいと思い、ジャネットが浮気に走るのも当たり前だと思っているかもしれません。
そりゃそうですよね。
ジャネットはまだまだ美人だし、母としてだけではなくて女としても扱ってほしいに決まってます。
そんなジャネットを勝手な理由で置き去りにして、家の管理も息子の世話も押し付けるなんてありえない!
あなたはきっとそう思ったはず。
それは間違っていません。
結婚という制度だけで女性を縛るには、女性の心はあまりに複雑すぎる。
夫だけは遠いところまで旅立ったくせに、妻は浮気せずにじっと家にいろなんて酷ですよねそりゃ。
浮気は100%悪いことではありません。
妻を女性として扱わない夫は、浮気されるという代償を払うことになるのです。
息子ジョーに感情移入したあなたは
ジョーに感情移入したあなたは、まだ子供の心を失っていません。
ジョーは14歳ですからね。
だんだん性的なことに捕らわれはじめる時期に、父が長期間留守になり、しかも母が母であることをやめて女の顔を見せはじめて浮気しはじめたら?
トラウマになりますよね。間違いなく。
子供は親を選べませんが、親だって子供は選べないのです。
いくら愛情のある親だって、自分を100%殺して子供を育てることはできないと思います。
親だって悩む人間、あるいは子供以上に悩む人間なのです。
まとめ
ちなみに僕は、父ジェリーにいちばん感情移入してしまいました。
現在の立場を捨てて遠くに行きたいって気持ちは、すごくよく分かるんです。
男は何歳になっても、何者かになりたいと思って遠くの景色を見ようとする愚かしい生き物なんです。
山火事を長回しのショットで見せるワンシーンがありましたが、あれは父ジェリーの焦りの気持ち、焦燥感を直接表現していてうまいメタファーだなと思いました。
誰に感情移入したって間違いではありません。
だってこの3人家族は、誰も間違ってないんだもの。