数字は嘘をつかないが、数字を扱う人間は嘘をつく。映画『アルキメデスの大戦』レビュー ネタバレ

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公開日初日に観てきました。

観客の年齢層は高いだろうと予測していたのだけど、案に相違して若者が多かった(僕も含めて)。

若者だって戦争に興味がある。若者には若者なりの戦争観がある。

 

まあ、戦争を実際に体験した世代はもはやほとんど残っていないので、「戦争を知らない」という意味では、今の若者も高齢者も同じなのだ。

 

世代間のギャップを乗り越えて、みんなで歴史を学びたいですね。

 

 

あらすじ

物語は、戦艦大和の沈没シーンで幕を開ける。

100年に1人の数学の天才と名高い櫂直(かい ただし)は、山本五十六によって海軍少佐に抜擢される。

大の軍隊嫌いの櫂だが、反対派勢力が提出した不当に安い戦艦の費用見積の虚偽を暴くために、次第に真剣になっていく。

彼にとっての戦争は、机の上で始まった……。

 

冒頭シーンでノックアウト

観客はまず、冒頭で戦艦大和が沈没する凄惨なシーンでノックアウトされる。

戦艦大和が沈没したのは誰もが知る史実なので、これをラストシーンに持ってきても観客を引き付けるのは難しい。

 

沈没シーンをあえて冒頭に持ってくることによって、この後の展開(映画では、このシーンの後、時系列がさかのぼって過去の話になる)が気になるという構成なのだ。

脚本がうまく練られている!

 

冒頭こそド派手な戦闘シーンだが、その後は戦艦の見積もり予算の不正を暴く地味なシーンが続く。

戦争の表ではなく、戦争の裏を描いた映画だ。

「裏戦争映画」とでも分類できるかも。

 

デジタルネイティブ世代の僕らから見て

生まれた頃から当たり前のようにインターネットがあった僕らデジタルネイティブ世代」にとって、この映画のあるシーンに違和感を覚えた。

 

櫂が戦艦の図面を盗み出して、急いで手帳に書き移すあのシーンだ。

 

現代なら、ポケットからスマホを出して写真一つ撮るだけの一動作で済む作業だが、当時はとてつもなく面倒だった。

 

櫂は卓越した知力を持つ人間だが、自分の目で確かめて、さらに手で触れないと気が済まないという、現代から見るとアウト・オブ・デートな人間に見える。

 

現代の僕らはわざわざ触れなくたって、ネットの情報で世界を知ることができる。

ボタン一つで写真が撮れるから、鉛筆で苦労して情報を書き移す必要なんかない。

 

だから、僕らにはたくさんの余暇が生まれているはずなのだけど、残念ながら戦争当時の人間に比べて現代の人間が格段に賢いとは思えない。

 

せっかく便利になって余暇が生まれたのに、僕らはその余暇を何に使っているのだろう?

 

後半の室内劇

後半は、「建造計画会議」のシーンが占めているので、舞台はほとんど室内。

狭い会議室で、大人たちが大小さまざまなプライドを賭けて議論する。

 

最初は反対派勢力が強かったのに、徐々に巻き返していって最後には逆転してしまうという構成は、昔の名作映画『12人の怒れる男』を思い出させる。

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 飛び交う専門用語はまったく分からないけれど、その意味不明さがさらに議論をヒートアップさせるという奇妙な空間に、観客は捕らわれる。

 

映画の作り手としても、専門用語なんて理解できなくたっていい。議論のヒートアップさえ感じてくれればいいというスタンスなんでしょうね。

その企みは見事に的中してます。

  

結局、誰が愛国者なのか?

ラストは非常に錯綜する。

一貫して正義の側に立っていたように見える櫂くんも、最後にはなにが正義か分からなくなる。

 

正義が行方不明になってしまうのだ。

 

穏やかな軍人のように描かれていた山本五十六も、やはり急進的な軍人か、と思わせるような隠れた側面を見せるし、

敵のように思えた平山造船中将が、思いがけない愛国心を暴露したり━━

最後には誰が正しいのか分からなくなってしまう。

 

数字は嘘をつかないが、数字を扱う人間は絶対に嘘をつく。

 

誰が正しいかなんて、人間には決められない。

 

正義が行方不明のまま、この映画はエンディングを迎える。

まとめ

数字、戦争、計略、不正、正義、愛国心━━

いろんな要素の詰まったこの映画、平成生まれの僕には、ずんと胸にのしかかってくるものがありました。

 

改めて日本の歴史の重さに戦慄します。

やはり日本人は、リュックサックに詰めるには重すぎる歴史を背負っているんだなと痛感しましたね。

 

誰か、このリュックサックを軽くしてくれ……