お父さん!笑う月が追いかけてくるよ! 世界初のSF映画『月世界旅行』
月が笑いながら追いかけてくる……。
そんな夢を子供の頃に見ていた僕のお話。
笑う月の夢
実は僕、子供の頃にこんな夢をよく見た。
ハイウェイを突っ走る車。後部座席に僕は寝転んでいる。
運転しているのはたぶん父親。
僕は後部座席でまどろんでいる。
すると、かすかに笑い声が聞こえる。
どこから?
後ろからだ。
リアウィンドウ越しに後ろを見ると、真っ青な顔をした巨大な月が笑いながら、僕の乗る車を追いかけてくるのだ。
「ヒャーハッハッハッハ!」
月は呵々大笑しながら、道路の数十センチ上をスライドするように追いかけてくる。
月はどんどん距離を縮めてくる。
他の車がどんどん僕の車を追い抜いていく。
他の車は笑う月に恐れをなして、スピードアップして逃げようとしているのだ。
「お父さん!」
僕は運転席の父親に向かって叫ぶ。
なぜ、スピードを上げないの? 後ろから月が追いかけてきてるよ!
父親はゆっくりと振り向く。
父親の顔が、笑う月になっていた。
━━とまあ、こんな夢である。
夢はその人の想像力の豊かさを示すなんて研究もあったけれど、子供の頃の僕はかなり想像力にあふれた子供だったのだろう。
この話、夏目漱石の『夢十夜』の中に入れたって遜色ないと思う(自惚れ)。
実はこんな話をしたのには理由があって……。
なんで子供の頃にこんな夢をよく見たのか疑問だったのだ。
その疑問が最近、氷解した。
夢の元ネタ
この夢の元ネタは、とある映画だったのだ!
それがこれ。
これは 1902年のサイレント映画で、世界初のSF映画と言われている。
あらすじは簡単。
研究者の乗った砲弾型ロケットが地球から発射される。
ロケットは月の右目に命中。
無事に月に着陸するが、先住民の襲撃を受ける。
なんとか襲撃を逃れて、地球に凱旋帰国するというお話。
先日、youtubeをサーフィンしてたら、たまたまこの映画に行きついて(どんだけ暇なんだ)、強烈なデジャヴを感じた。
思い切って見てみると、小さなころに見たあの映画だったのだ!
完全に忘れてたけど、小さなころに見たあの夢は、この映画が原因だったんだろうな。
この映画のワンシーンに、ロケットが月の右目に命中するシーンがあるのだが、それが当時幼い僕にはもう怖くて怖くて……。
このシーンなのだが、月の表情がやけにリアルでヌルヌル動くのだ。
当時の旧式の撮影技術でどうやって撮ったのかは知らないが、映画史的にいって超重要な記念碑的作品らしい。
まあ、映画マニアしかこんな映画知らないだろうけど……。
興味のある方はぜひyoutubeでご覧ください。
著作権はとっくに切れてパブリックドメインになってるので、誰でも無料で観れます。
問題のトラウマシーンは6分35秒~です。
ジョルジュ・メリエス 月世界旅行(1902) リマスターサウンド付き ノーマル・エンディング・バージョン
ちなみに安部公房という作家も、『笑う月』というタイトルのエッセイを書いている。
彼もまた、僕と同じように月に恐怖心を抱いていたのだろうか?
大人が見るとなんでもないものでも、多感な子供にはトラウマとなる映画はたくさんある。
僕にとってはこの映画がそうだった。
あなたも車の後部座席に乗るときは気をつけてほしい。
笑い声が聞こえてきても振り向いてはいけない。
夜になると、月はいつでもあなたを見て笑っている。